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原発不明がん

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疾患概要

原発不明がんとは、全悪性腫瘍の1~5%に発生する、年間約5,000~10,000例程度罹患数のある希少がんの一つです。臨床的には、転移がんのみ見つかり、原発巣が同定できないがんのことを原発不明がんと言います。診断は、原発巣を同定するために、全身CTや、消化管内視鏡検査などをして、原発巣を探すことをしますが、原発不明がんの疑い/診断がついた場合には、専門医に相談することが勧められます。
原発不明がんは、一般的には、治療が困難で予後が不良な疾患なのですが、約20%に特定の治療に反応する「特定の治療可能な原発不明がん」が存在(Specific subgroup, Favorable subsets)が存在します。大切なことは、むやみに、原発巣を探すために過剰な検査を繰り返すことではなく、この「特定の治療可能な原発不明がん」を早く同定することなのです。

治療について

診断と治療のフローチャート

診断のポイントは、1.原発巣があるかないか、2.特定の治療可能な原発不明がんを同定すること、を速やかに行うことです。原発巣探しにやみくもに検査を繰り返し、時間を無駄に使わないことが大切。

  • 可能な限り、速やかに組織検査(生検)を行う。骨病変なら、骨生検。腹腔内病変なら、場合によっては、開腹(腹腔鏡)生検を行う。
  • 細胞診は、組織診ができない場合、並行して行える場合には、有用になる。
  • 家族歴(家族性・遺伝性がんの推測)も大切
  • 乳がん、卵巣がんの家族歴:遺伝性乳がん卵巣がん症候群
  • 大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、卵巣がん、腎盂(じんう)・尿管がんなどの家族歴:リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)
  • 肉腫、副腎皮質腫瘍、脳腫瘍、白血病、乳がんなどの家族歴:(リー・フラウメニ症候群)
  • 身体所見では、直腸診、乳房の触診も忘れずに(前立腺がん、乳がんを診断できる)
  • 全身検索には、全身CT(造影あり)
  • PET-CTは、頭頚部領域の原発不明がん、単発の転移病変の際の原発巣特定に有用であるが、その他の原発不明がんの診断の有用性は不明
  • その他の検査:上部・下部内視鏡検査、マンモグラフィー、甲状腺エコー、尿細胞診、婦人科的内診など
診断と治療のフローチャート

図1

治療について

  • 特定の治療に反応する原発不明がん(favorable subsets)には、特定の治療を行う(図2)
    女性で腋窩リンパ節転移のみを有する症例:乳がんに準じた治療、すなわち、薬物療法(ホルモン療法、分子標的薬、化学療法)、手術、放射線治療の適応になる。
    女性、腺がん、がん性腹膜炎のみを認める症例:卵巣がんまたは、原発性腹膜がんの可能性が高い。可能であれば、組織検査、免疫染色をして確定診断をつける。治療は卵巣がんに準じて、薬物療法、手術(子宮全摘手術、両側付属器切除術、大網切除術)が行われる。
    男性、多発性の造骨性骨転移、血清中前立腺特異抗原(PSA)上昇、あるいは病理組織が腺がんの症例:前立腺がんを疑う。前立腺に明らかな原発巣が認められなくても、転移性の前立腺がんに準じて、を試みることが勧められている。
    免疫染色により、大腸がんの分子マーカープロファイルを有する症例:大腸がんの治療に準じて、薬物療法、手術が行われる。
    50歳以下の男性、未分化がん、低分化腺がん、縦隔、後腹膜リンパ節転移など身体中心線上に病変が分布する症例:病変が身体の中心線上縦隔から後腹膜リンパ節に分布し、男性で年齢50歳未満、病理組織が未分化癌、低分化腺癌である場合は、性腺外原発の胚細胞腫瘍と同様に扱われる。血清中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)やα-フェトプロテイン(AFP)の上昇を認めることも特徴であり、病理組織のAFP、hCGの免疫染色も実施する。肺転移を伴う時には、病状の進行は早い。治療としては、化学療法が非常に奏効する。poor riskの胚細胞腫瘍に準じて、ブレオマイシン(BLM)+エトポシド(ETP)+シスプラチン(CDDP)(BEP療法)4サイクル行う。
組織型 臨床像 治療法
腺癌 女性で腋窩リンパ節転移のみを有する stage Ⅱ 乳がんに準ずる
女性でがん性腹膜炎のみを有する stage Ⅲ 卵巣がんに準ずる
男性でPSA上昇を伴う像骨性骨転移のみを有する 進行前立腺がんに準ずる
大腸がんの特徴を有する(CK7(-); CK20(+); CDX-2(+)) 進行大腸がんに準ずる
非小細胞肺がんのプロファイル 進行非小細胞肺がんに準ずる
腎細胞がんのプロファイル 進行腎細胞がんに準ずる
甲状腺がんのプロファイル 進行甲状腺がんに準ずる
腺癌または低分化癌 単独の転移巣 局所治療(切除 or 放射線治療)
扁平上皮癌 上〜中頸部リンパ節転移のみを有する 頭頸部がんに準ずる
限局する鼠径リンパ節のみを有する 局所切除
低分化癌 若年男性、縦隔〜後腹膜リンパ節転移を有する(i12p)or HCG/AFP高値 性腺外胚細胞腫に準ずる
低分化神経内分泌癌 病理組織で、神経内分泌腫瘍 platinum/etoposide or paclitaxel/platinum/etoposide

図2

  • 特定の治療に反応する原発不明がん (favorable subsets)以外の原発不明がんに標準治療は確立されていないが、一次治療としては、TC(パクリタキセル/カルボプラチン)療法(奏効率役20-40%)が一般的にはよく行われる。二次治療として、免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ)(奏効率18.2%)が承認され、使用することができる。